腸内細菌叢の確立に影響する要因

前回の記事の続きです。

 

腸内細菌叢の確立に影響を与えている要因についてより深く考えてみましょう。

やや厳しい内容も含みますが、やみくもに現代医療を批判しているわけではなく、事実に基づいております。

 

やむにやまれぬ事情もたくさんあることは、臨床医である私も十分に承知しております。

もし、これらに当てはまることがあっても落ち込むことはありません。

これらを踏まえてどう考えていくのかは、これからの問題であり、社会全体の問題でもあります。

 

抗生剤の使用

出産前後には、様々な医学的な理由により抗生剤が投与されることが多いですが、抗生剤が投与された場合は、妊婦の腸内細菌のバランスを大きく崩し、膣内や乳首の細菌もほとんどいなくなることが考えられます。

 

母へ投与された抗生剤の一部は児へも移行し、出生後の腸内細菌の確立にも影響を与えます。

 

また、カゼなどの軽症な病気に対する抗生剤の児への使用も腸内細菌叢への重大なダメージを与えています。

熱があっても、ほとんどの場合に抗生剤は必要ありません。

 

帝王切開

特に現在では様々な理由により、やむを得ず帝王切開となるケースが多くあります。

 

自然分娩では児が母の産道を通過することにより、母由来の様々な菌に一番初めに接触しますが、帝王切開ではこの機会が失われます。

 

また、帝王切開では抗生剤が使用されますし、出生後の児の状態(接触する菌)も自然のものとは大きく変わってしまいます。

 

病院でのお産

現在では、お産の99%が病院や診療所になっています。

 

新生児は、生まれた場所の微生物に触れ、順次取り込んでいきます。

現在では、病院の分娩台、ベッド、寝具、室内の菌が取り込まれることになります。

 

一般に病院や、診療所は気密性が高く、通常の空間よりも清潔であるため(当たり前ですね)、自然とは異なり、菌自体の種類や数も少なく、多様性に欠けます。

 

また、消毒の徹底や抗生剤の使用などにより、通常はいない不自然な菌(MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)などの耐性菌)が多く存在します。

 

病院出産の児の多くの腸内にMRSAが定着しているというデータもあります。

 

④人工ミルク

母の乳首にビフィズス菌が常在していたり、母乳にはこれを増やすためのオリゴ糖が多量に含まれることは述べました。

 

その他にも母乳には免疫物質(特にIgA)が含まれており、児の免疫系を補助したり、必要な腸内細菌の選択(人は特定の腸内細菌を優遇しているのです)にも関与していることが分かってきています。

 

母乳は人の生涯における唯一の完全栄養食でもあります。

 

⑤室内の環境

現在の住環境(とくに都会)は密閉された状態が多く、空気も空調で調節されています。

 

このような環境では、自然の状態とは菌の数、種類が大きく異なります。

 

空調を使わないということではなく、1日に何度か窓を開け、空気を入れ替えるなどの工夫をする方が良いでしょう。

 

さらに最近では、様々な抗菌グッズ(石けん、洗剤、消臭剤、芳香剤、柔軟剤、タイル…)にあふれており、室内に自然にいる微生物も大きなダメージを受けています。

これらはなるべく使用しないか自然素材のものを選びましょう。

 

また、昔は、みそやしょう油などの発酵食品を自宅で作る場合が多かったので、善玉菌である麹菌や酵母菌は普通に室内にいた菌でした。

現在ではこれらも失われてしまっています。

 

⑥食事

乳幼児が口にする食事が腸内細菌に最も大きな影響を与えます。

食事の内容自体もそうですが、食材に含まれる農薬、除草剤、防虫剤、放射能、様々な添加物(防腐剤、着色料、保存料…)も大きな問題です。

 

離乳食でさえレトルトのものが増えてきました。

食事もできるだけ自然食を手作りで与えてあげましょう。

 

このように見ていきますと、現代の私たちの生活や考え方が、いかに自然からかけ離れているのかが分かります。

このことが、私たちの体を弱くし、病気が増え続けている最も根本の原因なのです。



乳幼児期に、様々な微生物と触れ合うことが大事だと書きましたが、回りの環境を汚くすることが良いわけではありません。

 

まず、上下水道の完備がなされている現代では、以前のような伝染病や重篤な感染症が流行る可能性はほとんどないと考えられます。

 

ただ、日ごろの手洗い・熱湯消毒などの基本的な衛生管理はとても重要です。あくまで、過剰になっている清潔志向が問題なのです。

 

腸内細菌は一度確立されてしまうと、縄張り意識が強く、大人になってからいくら良い食事や生活環境を整えても、新しい細菌は腸にはなかなか定着しません。

 

しかし、食事などの生活習慣の改善は、続けることで、悪化している腸内細菌叢でも少しずつは変化していき、それに伴って体質も改善していきます。

健康は1日にしてならず、継続が重要なのです。

 

腸内細菌はその後も食事や生活環境、年齢などの影響を受け生涯にわたり変化し、私たちの健康や病気と密接に関わり続けます。

 

腸内細菌の記事はまだ続きます。

 

長いですが、とても重要ですのでお付き合いください。

 

関連記事

微生物を排除してきた歴史と病気との関係 ~アレルギーや自己免疫疾患が増加している最も重要な原因~

まず、これまでの記事のいくつかの重要な事項の確認になります。   ①人とは一個の独立した生物(存在)ではなく、腸内細菌などの常在微生物(さらに、かつては寄生虫を含めた)と共生している複雑な生態系(超個体)である。   ②私たちは、私たちだけでは免疫をうまくコントロールできず、腸内細菌などの常在菌や常在ウイルス、寄生虫などと共生(連携)することにより、正常な免疫反応を維持できる。   ③これらの微生物を排除したことが、近年爆発的に増えているアレルギーや自己免疫疾患、さらには、その他のほとんどの病気(ガンや生活習慣病などの慢性病)の最も重要な原因である。   ④腸内細菌などの常在菌は人生のごく初め […]

no image

感染症には感染すべき時期がある~ワクチンはこれを全く無視している~

今回は、「微生物の感染時期」と「病気の発症」について考えてみます。様々な病原菌(ウイルス)は感染する時期によりまったく症状が異なるものがあります。いくつかの例を挙げて解説し、ワクチンについても考察してみます。   ①ピロリ菌 ピロリ菌は一般には、胃潰瘍や胃癌の原因となる悪い病原菌と考えられています。 ほとんどの医師も同様の認識で、ピロリ菌が見つかると、多くの場合に除菌(抗生剤で菌を取り除く)を勧められると思います。 まず、ピロリ菌はずっと以前から人と共生している常在菌で、悪い事ばかりが強調され悪玉菌の代表のようにされていますが、本当は日和見菌です。 ピロリ菌は乳幼児期早期に感染すると […]

no image

発酵食品作りに使う種麹の完成

無事に種麹の培養が終了し今年の発酵食品に使う種麹が取れました。 米(3分つき米)1kgからとれた種麹はわずかに10gでした。 片栗粉などで10倍に希釈して冷蔵庫で保存します。冷蔵庫ではほぼ半永久的に保存できます。 この10倍希釈した種麹1gから1kgの穀物(米、豆、麦など)を発酵して麹(米麹、豆麹、麦麹など)を作ることができます。 先日の菌の培養開始の記事で紹介しましたが、日本の主な調味料(みそ、しょうゆ、みりん、酢、酒、甘酒など)は麹菌で発酵させた麹から作ります。 日本は世界で一番食料の破棄(残飯量)が多い国であり、食べものが溢れていますが、本当の意味で食べられる(安全な)食べ物がなくなって […]

no image

最も重要な情報の簡潔なまとめ(2/21) COVID-19①

いまさらながらですが^^私は医師であり、臨床は小児科学、研究はウイルス学、ワクチン学が専門になります。米国NIH(国立感染症研究所)に3年間程留学し、分子生物学(遺伝子工学ともいいDNAやRNAなどの遺伝子を切ったり、繋いだり、合成したりします)を使いロタウイルス、ノロウイルスなどの研究をしていました。 現在、新型コロナウイルス(COVID-19)が巷を騒がしていますので、一応専門家??として、何回かにわたって解説し記事にしてみます。 今回の新型コロナウイルスは昨年末(令和元年12月頃)に中国の湖北省武漢市で出現したとされていますが、感染拡大にともない、連日、ニュースや報道番組、ネットなどで様 […]

no image

微生物の排除が病気を作っていることが常識になる時代へ

近所の本屋さんで「あなたの体は9割が細菌」という本が目に止まりましたので、早速購入してみました。簡単に概説し、私の意見を加えてみます。 ゲノムとは1つの生物の遺伝情報で、本体は細胞内のDNAです。 DNAは4種類の塩基(文字のようなものに相当)が並ぶことにより(配列が)、情報を伝える設計図になっています。 ヒトゲノムは30億塩基もの長さがあり、このすべての配列を解析したのがヒトゲノム・プロジェクトで、2003年に完了しました。 これにより当初は、病気のメカニズムのほとんどを解明できるとまで期待されていましたが、遺伝子の配列だけではほとんど何も分からないことがはっきりし、思ったほどの成果はありま […]

PageTop