腸内細菌叢の成り立ち

前回の記事で、腸内細菌の様々な働きをみてきましたが、今回は、腸内細菌叢がどのように作られていくのかを解説していきます。

 

まず、一般的な腸内細菌叢のパターンについてです。

 

腸内細菌叢は指紋のように、人によって個人差があります。

一卵性双生児では二卵性双生児よりも似通った腸内細菌叢になります。

一緒に暮らしている人(夫婦、兄弟、家族)も腸内細菌叢が似てきます。

ある種族や地域、国によって共通する腸内細菌の傾向というものもあります。

 

このように、腸内細菌叢は遺伝あるいは環境による影響を受けますが、かなりの部分は食べ物によって左右されると考えられています。



食生活以外にも、腸内細菌叢に影響を及ぼす要因として、消化管の感染症、抗生剤などの薬の使用、抗菌グッズの使用、睡眠、ストレス、加齢などが知られています。

 

このうち、特に重要な抗生剤と抗菌グッズに関しては前回の記事でも触れました。

 

また、病気の人は、一般に、腸内細菌叢にダメージがみられることが多いのですが、病気の種類によって一定の腸内細菌叢のパターンがあることが次々に報告されてきています。

 

腸内細菌叢のパターンを解析することにより、免疫や病気の状態を診断したり、改善することによる治療が始められてきています。

 

では、腸内細菌叢がどのように確立されていくのかを説明します。

 

妊娠中の母体内の胎児は全くの無菌の状態で、腸内細菌は存在しません。

 

腸内細菌の確立は、お産の途中から始まります。

 

新生児はまず、お産の時、母の膣内の細菌や母の腸内細菌に触れます。

 

出生後は、母の乳首や指、父や兄弟などの家族、ペット、室内の細菌などを取り込んで行きます。

 

生後数時間で、すでに腸内細菌が確認でき、数日後には1gあたり1011個もの腸内細菌が生息していると言われています。

 

妊娠末期には母の膣内は、グリコーゲン分泌が増え、乳酸菌が特異的に増加し、子どもが初めて触れる菌の準備をしています。

 

また妊婦の乳頭にはビフィズス菌が常在しています。母乳栄養児では哺乳のたびに取り込まれることになります。

 

母乳には多種類のオリゴ糖が含まれますが、これは乳児には消化できないもので、ビフィズス菌だけが消化できます。

 

人にはこのように、善玉菌の代表とされる乳酸菌やビフィズス菌を児の腸内で優先的に増やす自然のしくみが備わっています。



母乳だけで育った乳児の腸内細菌は95%がビフィズス菌であると言われています。

 

その後、離乳食の開始などから次第に他の細菌が増加していきます。

 

その後も、食事、兄弟や家族、ペットや家畜、室内などから、さらに、外出が始まると、保育園や幼稚園、友達、外出先の空間などから様々な微生物を取り込んでいきます。

 

人生のごく初めの時期、とくに3歳までになるべく多くの菌にふれあい、取り込むことにより、バラエティに富んだ腸内細菌叢が確立されていきます(前回の記事で腸内細菌の多様性の重要性については説明しました)。

 

また、乳幼児の免疫系は、様々な微生物と関わることで、これを記憶はしますが、積極的に攻撃はせず、免疫寛容(排除するのではなく共生・共存する)についても学習していきます。

 

乳児は色々な物に触れ、何でも口に入れる時期がありますが、これは、自分が生まれた環境の微生物を取り込んで、外界と一体になろうという無意識の反応と考えられます。

すべてのことには意味があり、無駄なことは何もないのです。

 

この時期に確立される腸内細菌叢が、なんと、その人のその後の生涯にわたる健康状態、病気になり易さ、病気になった時の体の反応などの基本的なパターンを決定してしまうほど重要です。

 

長いので、次の記事に続きます。

関連記事

no image

COVID-19の抗体検査による疫学調査の結果が次々と出て来ています COVID-19⑱

COVID-19の抗体検査による疫学調査の結果が次々と出て来ています。 まずは、結果だけを簡単に書きます。 ①米カリフォルニア州 サンタクララ郡 人口約200万人 https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.14.20062463v1.full.pdf ・3330例のうち1.5%で抗体陽性 ・年齢、性別、人種などで補正して全人口の約2.49〜4.19%(48000〜81000人)がすでに感染したと推定 ・これは、PCRで確認された公式患者数950人の50〜80倍 ・補正した感染者での致死率は0.12〜0.2%になる ②米カリフォルニア州 ロサ […]

no image

月刊「クーヨン」の今月号2018年10月号の記事

オーガニック系育児雑誌「クーヨン」の今月号(2018年10月号)が発売になっています。 今月号の特集は「子どもを壊す食べ方させてませんか?」です。 私は「腸が元気になる“引き算”の食べ方」という記事で登場しています。 腸および腸内細菌の状態が人の健康にとって最も大切なことを繰り返しお伝えしています。 今までの医学、栄養学、代謝学、食事論、健康論・・・は、この最も大切な腸内細菌の概念が欠如しています。 腸内細菌が元気であれば、腸内細菌がすべての栄養素(必須アミノ酸、必須脂肪酸、短鎖脂肪酸、ビタミン、ミネラル・・・)を補ってくれます。 腸内細菌という概念がなければ○○が不足する、人が作れない・・・ […]

no image

発酵食品作りに使う種麹の完成

無事に種麹の培養が終了し今年の発酵食品に使う種麹が取れました。 米(3分つき米)1kgからとれた種麹はわずかに10gでした。 片栗粉などで10倍に希釈して冷蔵庫で保存します。冷蔵庫ではほぼ半永久的に保存できます。 この10倍希釈した種麹1gから1kgの穀物(米、豆、麦など)を発酵して麹(米麹、豆麹、麦麹など)を作ることができます。 先日の菌の培養開始の記事で紹介しましたが、日本の主な調味料(みそ、しょうゆ、みりん、酢、酒、甘酒など)は麹菌で発酵させた麹から作ります。 日本は世界で一番食料の破棄(残飯量)が多い国であり、食べものが溢れていますが、本当の意味で食べられる(安全な)食べ物がなくなって […]

no image

微生物の排除が現代病を引き起こすメカニズム~現代人は出生時から病気になりやすい状態になっている~

これまでの記事で、近年急増している現代病(アレルギー、自己免疫疾患、自閉症、さらには多くの慢性病)が寄生虫や微生物を排除していることが重要な原因であることを説明し、さらに産業革命以来の超長期的な視点からもそのことを確認してきました。 私たちは独立した一つの生命ではなく、人類の始まりからずっと長い間、腸内細菌などの常在菌や常在ウイルス、さらにかつては寄生虫などと供に生きてきた超個体(生態系)なのです。   私たちの身体の腸内や口の中、皮膚などは、これらの微生物がいることが正常な状態であり、適切に免疫をコントロールするためには、これらとの連携が必要であるため、微生物を排除することにより免疫の異常が […]

no image

PCR検査から真の感染率(患者数)と致死率を簡単に推計する論文 COVID-19㉓

COVID-19の感染率(患者数)、致命率について面白い解析をしている論文があります(medRxivですのでまだ雑誌に載っていないプレプリントです)。 https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.13.20101071v1.full.pdf この報告はPCR陽性率(検査した人での陽性の割合)とPCR検査率(人口での検査をした人の割合)が逆相関することを利用して、 できるというものです。 ポイントは、抗体検査をしなくても、PCR検査数を増やさなくても計算できてしまうということです。 報告したのは、日本の帝京大学の脳神経内科の教授をされている園生 […]

PageTop