新型コロナウイルス感染症の軽症例と重症化を分ける免疫の仕組み(3/13) COVID-19⑧

新型コロナウイルスの記事をいくつか書いています。今までの記事のリンクを以下にまとめておきます。ぜひ合わせてご参照ください。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2638163739841962

今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、軽症のまま治ってしまうほとんどの人と、重症化する一部の人に分かれますが、初めは同じ風邪症状で経過し区別できません。では、何がこの違いに関係しているのでしょうか?

免疫力、抵抗力、解毒力などの一言に尽きるといえばそれまでですが、これらの表現はあまりに漠然としすぎており、かえって混乱を与えているように感じます。

そこで今回は、この重症化に関係していると思われる免疫の仕組みをCOVID-19の経過と合わせて説明し記事にします。次回は重症化のカギを握るACE2(アンジオテンシン変換酵素2)について詳しく解説します。

COVID-19の約半数(主に子どもと若い成人)は無症状で、発症しても約8割は軽症になりますので、軽い感染症と考えていいでしょう。しかし、発症者の2割弱は重症となり、入院が必要となったり、命に関わることもあります。

毎年流行る季節性インフルエンザでも日本で数千人(アメリカでは数万人)が亡くなっていますので、インフルエンザに比べるとそれほど恐れる感染症ではないと思います。つまり、今回のCOVID-19は、(健康な人には)強い風邪程度の感染症で、(基礎疾患がある人は)風邪でも亡くなる事があるという認識が正しいと思います。
 
軽症で終わる人と重症になる人のパターンはほぼ決まっています。軽症の人は発症して約1週間で治ります。重症の人は発症してから約1週間程してから症状が急速に悪化します(図1)。

これには、獲得免疫系という免疫の仕組みが働いているからだと考えられますが、理解しやすい様に免疫や感染症を含めて少し解説します。
まず、免疫についての説明です。
免疫とは生体に対する異物(感染する細菌やウイルスなどの微生物や毒素、がん細胞など)を排除して、身体を守るシステムになります。免疫には「自然免疫系」と「獲得免疫系」があり、互いに連携して動いていますが、主に働く細胞の種類や時期、特徴などが大きく異なります。

①自然免疫系(非特異的免疫系)
自然免疫系とは、病原体が侵入して来た時に、とりあえず相手(病原体)の正体が分からなくても、自動的(自然)に発動する免疫反応です。

ほとんどすべての生物に備わっており、病原体が侵入してからすぐに反応できるのが特徴です。相手が分かっていないので、自然免疫系の効果はマイルドですが、これで治ってしまう感染症は、軽い感染症になり、次に起こる獲得免疫系の出動を必要としなかった病原体になります。

自然免疫系だけでは対処できない感染症では、免疫の主役が獲得免疫系にバトンタッチされます。これにより、強力な獲得免疫系が働くことになりますが、自然免疫系からの情報を受け取り、相手(病原体)を特定するなどの作業が必要になるため、この体制が整うには少し時間がかかるのです。

②獲得免疫系(特異的免疫系)
獲得免疫系とは特定の病原菌(分かっている相手)に対してだけ反応する免疫系です。初めての病原体に対しては発動に時間がかかりますが、自然免疫系に比べ強力で病原体の完全な排除、封じ込めに向かいます。

一度経験した病原体の2度目の侵入の時は、すぐに、そしてより強力に発動します。これが免疫の記憶であり、感染症の2度なし現象の理由であり、ブースター効果(下記をご参照ください)が起こることの理由でもあります。
https://shizenha-ishi.com/blog/vaccine/596/

次に、ウイルス感染症の経過を簡単に説明します。新型コロナウイルスは新しく登場したウイルスですので詳細は不明ですが、他のウイルスに準じて説明します。COVID-19の全体の経過は図2をご覧ください。

①ウイルスが細胞に感染し侵入
ウイルスが細胞に感染する為には、細胞上の受容体が必要になります。一般にウイルスと受容体の関係はカギとカギ穴の関係のようにウイルスにより異なり、違う受容体には感染できません。

新型コロナウイルスが感染するための細胞上の受容体の一つは、2003年に流行したSARSと同じACE2であることが分かっています。

新型コロナウイルスでは、口や鼻から吸い込んだウイルスが、主に舌、鼻、肺などの気道上(あるいは目)のACE2を発現している細胞に感染することから始まると考えられます。

自然免疫系はウイルスが体内に侵入した時点から発動し、ウイルス量が少なかったり、軽い感染症では獲得免疫系の出動を待たずにウイルスを排除し治癒します。

②ウイルスが感染した細胞内で増殖
この時期は潜伏期なので無症状になりCOVID-19では数日〜2週間程と考えられています。自然免疫系を逃れたウイルスは感染した細胞内に隠れているため、排除されにくく、症状もない状態で増殖しています。

③増えたウイルスが細胞から出て行き血液中に入る
これをウイルス血症(気道だけに限定していたウイルスが全身に回るということです)といい、通常これを感知して自然免疫系が強く発動すると発熱が出ます。これは主にインターフェロンの作用によります。これにより体は臨戦態勢(免疫力を上げる)に入ります。

通常はこの時期から人に積極的に移す時期になります。

熱は病原体が出している訳ではなく、病原体の侵入を体に知らせるアラームとして出ているのです。ですから、解熱剤を使ってはいけません。解熱剤はせっかく上げようとしている免疫力を下げてしまうのです。インフルエンザ脳炎脳症などはこのパターンで起こると考えられます。

④COVID-19の症状が出る
症状は感染細胞が障害されていることによる症状(咳、のどの痛み、呼吸困難)と自然免疫系が働くことによる症状(発熱、倦怠感、食欲低下、関節痛、筋肉痛)があります。()は今回のCOVID-19による症状です。

⑤増えたウイルスが血液を通して全身の細胞へ拡散する時期
全身のACE2発現細胞だけに感染します。ACE2は腸と肺に集中して発現しています。他に上気道、心臓、胆のう、腎臓、精巣での発現が確認されています。この時期は獲得免疫系が発動するまで自然免疫系が時間を稼いでいる期間になります。

⑥獲得免疫系が発動
今回の新型コロナウイルスは新しく登場した感染症(新興感染症といいます)です。つまり、ほとんどの人にとってはじめて遭遇する病原体だということになります。はじめて経験する病原体に対しては記憶(免疫)がないので、獲得免疫系の発動に時間がかかります。

軽症で治ってしまう人と重症化する人がともに1週間くらいの経過後で共通していますが、これは獲得免疫系が発動する時期に一致しています。つまり、獲得免疫系の発動が回復するか重症化に向かうかの分かれ目になっています。

軽症の人は、獲得免疫系が発動することにより速やかにコロナウイルスが排除され治ります。重症になる人は、獲得免疫系が発動した際、その反応が強過ぎることにより、コロナウイルスごと感染した自分の細胞を強力に排除したり、その後の免疫の暴走を招くことにより病態が悪化すると考えらます。

つまり、COVID-19の重症化はウイルス自体の影響ではなく、獲得免疫系が発動し、それが強すぎることによって起こっていると思われます。なぜ獲得免疫系が強く反応すしすぎるのかの理由は大きく2つ考えられます。

①自然免疫系の働きが弱い
この働きが弱いと獲得免疫系が働くまでにウイルスが全身でたくさん増えていることになります。この状態で獲得免疫系が発動すると増えたウイルスを(感染細胞を含め)一斉に攻撃することになり、組織(COVID-19ではACE2発現細胞)の障害が大きくなりすぎます。

②獲得免疫系が過剰反応(暴走)している
現代人は一般的に獲得免疫系が暴走しやすい状態にあり、腸内細菌など微生物の排除がこの根底にあります。下記リンクなどをご参照ください。
https://shizenha-ishi.com/blog/microbe/32/
https://shizenha-ishi.com/blog/microbe/27/
https://shizenha-ishi.com/blog/microbe/28/

次回は、ACE2がCOVID-19の重症化を引き起こすメカニズムを詳しく解説します。

補足ですが、
今回解説した自然免疫系や獲得免疫系が働く以外に考えられる重症化に影響する要因としては以下のものなどがあります
①ウイルス量やウイルスの到達した距離(のどまで?肺まで?)
②粘膜免疫の強さ ウイルスが細胞にくっつくのを妨げます
③繊毛運動などの異物の排除力
 山田豊文先生がまとめています。ぜひ下記もご参照ください。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1303648103159564&set=a.248496015341450&type=3&theater
②③を含め自然免疫系をより広い意味(粘膜免疫も含め)で説明している場合もありますのでご注意ください。

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