急増している免疫の異常による病気(現代病)

免疫とは、かつては「一度かかった病気にはかからない」という経験的な現象を意味していました。

 

例えば、はしか(麻疹)にかかって治った人は、もう二度とかからないことをはしか(麻疹)に対しての免疫がついたと言います。

 

現在では、より大きな生体防御の仕組み全体について使われる言葉になっています。

 

簡単には、免疫とは、自分と自分以外の異物を区別し、異物を排除する反応を意味します。

 

この異物には、外から来る病原ウイルスや病原菌の他にも、外科手術で移植された他人の臓器などもあります、また、身体の内部から発生する異常な自分の細胞であるガン細胞なども含みます

 

免疫は、自己を防衛するシステムそのものですので、私たちの健康や病気のほとんど全てにかかわっているといって良いでしょう。

 

つまり、健康に生きていくためになくてはならない、最も基本の機能であり、病気の予防(未然に防ぐ)、発生(起こり方や起こる場所)、経過(病気になってからの経過)、治癒(治り方)のすべてに大きな影響を与えています。

 

しかし、本来は自己を防衛するはずの免疫が異常をきたすことにより、逆に病気を引き起こすことがあります。

そして、この免疫の異常による病気は、近年、爆発的に増加しています(以下に示すように、少し増えているというレベルではありません)。

 

免疫の異
常が引き起こす病気には、以下のように非常に多くのものがあることが分かってきており、ほとんどすべての病気と言ってよいのですが、大まかな分類を示します。医学用語も含みますので、簡単な説明とともに解説します。

 

 

免疫不全症

 

免疫不全症とは、免疫機能の一部あるいは全部に異常があるため、通常の生体防御機能が働かなくなる病気で、感染症やがんにかかりやすくなります。

 

先天性のものは、ほとんどが遺伝が関係しているまれな病気です。後天性の代表がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染によるエイズ(後天性免疫不全症候群:AIDS)です。

 

 

アレルギー性疾患(アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症(アレルギー性鼻炎)、食物アレルギー、アレルギー性結膜炎、アナフィラキシーなど)

 

アレルギー性疾患(以下アレルギー)とは、本来は人にとって無害な花粉やホコリ、食べ物などを異物として排除しようとする免疫反応が原因です(つまり免疫の異常です)。

 

縄文杉を見てわかる様に、花粉は以前から日本に存在していましたし、ほこりっぽい環境も昔からあったのですが、アレルギーは見られなかったのです。

 

現在、アトピー性皮膚炎は小児の約3人に一人、花粉症は成人の約2人に一人です!日本人全体でアレルギーの患者数は約4,600万人です!!

アレルギーは、わずか50年前までは1,000人に一人、70年前までは10,000人に一人くらいのめずらしい病気でした。

 

 

自己免疫疾患(いわゆる膠原病を含みます。関節リウマチ、SLE(全身性エリテマトーデス)、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)、シェーグレン症候群、重症筋無力症、バセドウ病、橋本病、クローン病、潰瘍性大腸炎、1型糖尿病、円形脱毛症など)

 

自己免疫疾患とは、本来は反応しない自分の細胞を異物として排除しようとする免疫反応が原因です(同じく免疫の異常です)。

 

アレルギーに勝るとも劣らない勢いで増加傾向にあります。

 

 

自己炎症(周期熱症候群、スチル病、サルコイドーシス、ベーチェット病、痛風など)

 

自己炎症とは自然免疫(免疫には自然免疫と獲得免疫があり、自然免疫とは、ほとんどの生物に備わっている原始的な免疫系です)の異常によって起こる病気です。

 

最近提唱された病気の一群で、頻度も多くはありませんので、詳しい説明は省略します。

 

 

慢性炎症に伴う疾患(がん、高血圧、高脂(コレステロール)血症、糖尿病、肥満、動脈硬化(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血)、心不全、不整脈、慢性肝疾患(脂肪肝、肝硬変)、慢性腎疾患、COPD、喘息、炎症性腸疾患、骨粗しょう症、認知症、うつ、老化など)

 

一般の人に最も多くみられるがんや生活習慣病など、ほとんどすべての慢性疾患がここに含まれています。

 

最近になって、これらの病気の背景には慢性の炎症(つまり免疫の異常)があることが分かってきており、とても注目されています。

 

長いので、次の記事に続きます。

 

関連記事

no image

月刊「壮快」2018年10月号「腸内細菌が作る短鎖脂肪酸が腸の内外で大活躍」

健康雑誌の月刊「壮快」に「自然派医師が土をいじる。菌とたわむれる。」という記事を連載中です。 今月号(2018年10月号)は連載第10回目「腸内細菌が作る短鎖脂肪酸が腸の内外で大活躍」です。 短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が産生する短い脂肪酸(炭素数2~5個)のことです。あまり解説されないことが多いのですが、腸内細菌が作り出すたくさんの物質の中で、最も重要といってよいくらい大切で、腸内細菌のほとんどの作用を担っています。 短鎖脂肪酸は、大腸の栄養源であり、消化管に直接作用する以外にも消化管以外のあらゆる臓器にまで(ホルモンや神経伝達物質のように)メッセンジャーとして作用しています。 代表的なものは酢 […]

no image

PCR検査から真の感染率(患者数)と致死率を簡単に推計する論文 COVID-19㉓

COVID-19の感染率(患者数)、致命率について面白い解析をしている論文があります(medRxivですのでまだ雑誌に載っていないプレプリントです)。 https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.05.13.20101071v1.full.pdf この報告はPCR陽性率(検査した人での陽性の割合)とPCR検査率(人口での検査をした人の割合)が逆相関することを利用して、 できるというものです。 ポイントは、抗体検査をしなくても、PCR検査数を増やさなくても計算できてしまうということです。 報告したのは、日本の帝京大学の脳神経内科の教授をされている園生 […]

微生物を排除してきた歴史と病気との関係 ~アレルギーや自己免疫疾患が増加している最も重要な原因~

まず、これまでの記事のいくつかの重要な事項の確認になります。   ①人とは一個の独立した生物(存在)ではなく、腸内細菌などの常在微生物(さらに、かつては寄生虫を含めた)と共生している複雑な生態系(超個体)である。   ②私たちは、私たちだけでは免疫をうまくコントロールできず、腸内細菌などの常在菌や常在ウイルス、寄生虫などと共生(連携)することにより、正常な免疫反応を維持できる。   ③これらの微生物を排除したことが、近年爆発的に増えているアレルギーや自己免疫疾患、さらには、その他のほとんどの病気(ガンや生活習慣病などの慢性病)の最も重要な原因である。   ④腸内細菌などの常在菌は人生のごく初め […]

no image

腸内細菌の種類と役割②

前回の記事の続きです。   人と腸内細菌は共生関係というお互いに助け合っている関係にあります。   腸内細菌にとって人の腸内に住むメリットとはなんでしょうか。 まず、私たちは、定期的に食物を食べますので、腸内細菌には自動的に食べ物(とくに糖質)が供給されます。 また腸内は適度な温度や水分が保たれており、腸内の酸素の少ない環境は、嫌気性菌が多い腸内細菌にとっては実に快適な住みやすい環境と考えられます。 一方、人にとってのメリットですが、腸内細菌が良い状態では、以下のように、人の腸内でとても多くの役割を果たしており、人の存在を根本から支えています。 ①常在菌として存在し病原菌の […]

no image

日本の一つのクリニックでの抗体検査の結果です COVID-19⑲

個人のクリニックですが、一般市民の希望者200名で抗体検査(簡易キット)を行い、約6%で陽性(つまり抗体を持っている=すでに感染している)という結果でした。 https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020043090070748.html この結果は、1クリニックの結果であり、 ①検査数がとても少ない ②検査を受けた人の集団の地域や年齢分布などの補正をしていない ③検査キットの感度や特異度が不明 などの問題がありますが、先日の慶応病院でのCOVID-19と関係のない人(総数67名)でのPCR陽性者と全く同じ割合(6%)になっています。 https://www […]

PageTop