ゲノム編集について
ゲノム編集を理解するためには、様々な専門的な知識が必要ですので、できるだけわかりやすいように用語を解説して説明してみます。
遺伝子とは、体の設計図です。背を高くする・低くする、肌を白くする・黒くする、感染にかかりやすい・かかりにくい、がんになりやすい・なりにくい・・・など、人の心身の特徴は、それを決める遺伝子により決まります(ただし遺伝子だけが全てを決定しているわけではありません)。
ゲノムとは、一つの生物がもつ遺伝子(すべて合わせた)の一セットのことです。人では40億の文字(DNA)からできており、その中に約25000の遺伝子があるとされています。ちなみに、人の遺伝子数が一番多いわけではなく、大腸菌は約4000個、マウスは約26000個、イネやトウモロコシは約40000個といわれています。
遺伝子工学とは、人工的に遺伝子を構成しているDNAやRNAを作ったり、切ったり、貼ったり、改変したり、組み替えたりする技術です。私がアメリカのNIHに留学していた時にしていた仕事は遺伝子工学を使ったウイルスの研究です。
ここで、やっとゲノム編集になります。
ゲノム編集とは、人工的に作られた特殊な酵素(人工ヌクレアーゼ)を使って目的の遺伝子を思い通りに改変する新たな遺伝子工学の技術です。
さて、この「ゲノム編集」と今まで言われてきた「遺伝子組み換え」とは何が違うのかということが最大の問題になりますね。
遺伝子を操作する技術は、これまではとても制限が多く、限られたことしかできなかったのです。2012年頃より新しく登場した技術(酵素)により、目的の遺伝子のどこにでも簡単に操作できるようになり、この操作をゲノム編集と呼ぶようになりました。簡単に説明すると、虫眼鏡を使っていたのが顕微鏡を使うレベルになったようなものなのです。
ゲノム編集を使わない遺伝子組み換え法もありますが、ゲノム編集は遺伝子組み変えもできますし、それ以外の遺伝子操作(通常は特定の遺伝子を壊す)も簡単にできてしまう発展型です。
一方の遺伝子組み換えとは、たくさんある遺伝子操作のうち、特定の遺伝子を組み換える(遺伝子配列をいじったものや他の遺伝子に取り換える)ことだけを言います。
今回の記事は、ゲノム編集で遺伝子組み換えをする場合は今まで通りに規制するが、それ以外は審査する必要がなく届け出だけでいいとするものです。しかし、それ以外も遺伝子を明らかに操作する技術であるのは変わりありません。
これは「遺伝子組み換え」に対する、一般の良くないイメージや実際に様々な問題が明るみ出たり、欧州で規制がかかってきていますので、それに代わる「ゲノム編集」という違う言葉を採用しているだけと考えていいでしょう。
ゲノムというように、自然界のそれぞれの生物は、それぞれのひとつながりの遺伝子セット(これがゲノム)を持っているのです。その一部を人が勝手に変えるとはどのような意味をもつでしょうか。一部は全体を構成するものですので、一部を変えると全体にどのような影響が出るかは全く分かりません。
このような操作を内容の公表もせずに届け出だけで許可してしまっていいのでしょうか?ぜひしっかりとしたルールを作っていただきたいと思います。