自然農 その3 自然農のしくみ①
農作業をしながら医師として様々な健康問題を考える中で、医療の世界と農業の世界に「微生物の重要性」というたくさんの共通項があることに気がつきました。
前回の記事で、自然農の基本的な特徴として以下のことを挙げました。
・土を耕さない
・肥料をやらない
・農薬をやらない(虫をとらない)
・草をむしらない
なぜこのような方法で作物を栽培することができるのか、あるいは、なぜ自然農をいきなり始めてもうまくいかないのかを私なり に考えをまとめてみます。
自然農を支えている最も大事なことはもちろん土(とくに微生物)と考えられ、すべての項目は微生物を傷めないということで共通しています。
1. 土を耕さない
慣行農法(化学肥料、農薬を使用する農法や有機農)では、土をふかふかにするために、一般的にはたい肥(牛ふんや腐葉土)を使い、機械あるいはクワなどで土を耕します。
土をふかふかにする(いわゆる団粒構造の土にする)ことで、根がはりやすくなり、植物の成長に欠かせない空気が入り、また保水性、保肥性が、よくなるとされています。
確かに耕したり、たい肥を加えることにより、一時的には土が柔らかくなるのですが、雨が降った後やとくに肥料をやった後などは、再びすぐに硬くなります。
このため、慣行農業では作物を栽培するたびに耕したり、たい肥を入れたり、さらに肥料を追加するなどの必要が出てきます。
自然農では自然の仕組みに沿って行う農(法)ですから、肥料のみでなく、たい肥も基本的には使いません。
自然の状態で大量の腐葉土や牛ふんなどが混じることはないと考えるからです(少量なら当然自然に混じり、自然に土に帰ると考えられます)。
ただし、作物の周りに生えてくる草が作物の成長の邪魔になるようなら地表10~15cm位のところで刈って、その場に敷いていきます。
また収穫した野菜の残渣なども細かく刻んで原則として収穫した場所に戻します。
野菜や草の根が自然に土の中に網の目状に広がり、それらが死んで土に戻っていく過程で、空気や水の入り込みやすい、いわゆる団粒構造の土を作っていきます。
つまり、人が耕さなくても野菜や草の根、虫、場合によってはモグラなどが自然に耕してくれるのです。
また土を耕さない状態では、土の深さごとに微生物のすみ分けが起こっています。
例えば深さ1cm、10cm、1mの所にはそれぞれ役割の異なる微生物が優位に存在し、微生物が豊かであれば、自然の法則に従って有機物を分解、解毒、除染しながら土に戻していきます。
これが、自然農の作物に養分を供給します。
土を耕すということは、それらをすべて混ぜこぜにする、つまり、リセット(0にする)ということです。
リセットしているわけですから、当然、自然のしくみは壊され、肥料をやらなければ作物は育ちません。
2. 肥料をやらない
化学肥料を使用すると、一見、作物の成長(見た目)は良くなります(栄養的や安全面では様々な問題があります)が、畑の地表や土の中の微生物が死滅してしまいます。
微生物は有機物を分解し、自分たちの必要分以外の残りの養分を植物に供給します。初めから分解された植物の養分(化学肥料)を与えると、微生物のエサがなくなってしまうのです。
結果として、自然の状態であれば養分を供給してくれている微生物が死んでしまうかあるいは特定の微生物だけが多くなった不自然な状態になります。
一度土がこの状態になると、肥料をやらなければ作物が育たなくなるのです。
有機肥料の場合には、微生物のエサがなくなるわけではないと思いますが、有機農であっても様々な問題があります。例えば、
・微生物が消費しきれない以上の大量の肥料の使用
・未完塾なたい肥、肥料による硝酸態窒素の発生
・使用する有機物(肥料や堆肥など)は自然の法則に任せているわけではないので、発生する微生物に偏りが生ずる
・遺伝子組み換え作物、農薬や放射能に汚染された作物、抗生剤・ホルモン剤入り飼料で飼育された動物由来の肥料やたい肥
・同様に遺伝子組み換え作物や農薬、除草剤、その他化学物質、放射能に汚染された植物性肥料やたい肥
以上の事から、次のような有機農は問題が少ないのかもしれません。
・遺伝子組み換えでなく、農薬などにも汚染されていない作物由来で、完熟したたい肥や肥料を必要最低限使用する
(このようなものは、もはや自前で調達するしかないでしょう)
・EM菌、愛媛AI、嫌気性菌、光合成細菌などの微生物を利用した、環境を破壊しない完全循環型の有機農
(特に微生物には無限の可能性があり、あらゆるものを浄化する能力に優れていますので、健康、農業、放射能の除染などこれからの時代の問題解決のカギを握っています)
有機農であってもこのような条件で栽培している農家さんも増えてきているようです。
実際私自身も、畑の半分を自然農、もう半分を米ぬかや家庭の生ごみを発酵させた肥料を用いた有機農で栽培しています。
自然農の土を耕さない畑では、刈ったり、自然に枯れた草花や野菜の残渣が微生物によりゆっくりと分解され、自然に土に戻っていきます。
このような状態になるためには、なによりも微生物が数も種類も豊かである必要があります。
余計な肥料分を含まない土で食物が成長するために、長い根を張り巡らせ、水や養分の吸収に優れた強い野菜が育ちます。このような野菜は栄養価も高く、おいしい野菜になります。また、気候の変動(冷夏や干害)などに対しても強くなります。
そのような作物から種をとり、栽培し続けることで、しだいにその土地の自然に適した野菜になっていきます。種を取り、つないでいくことも重要な作業に成ります。
慣行農法で使っている種や苗(多くはF1です)は肥料や農薬を使用することが前提となっており、それらを使用する環境でよく成長するようになっています。
ですから、ますます肥料、農薬が使われることになります。肥料を使っているのに野菜の栄養価はどんどん落ちて行きます(50年前と現在の食品栄養価を比較すれば一目瞭然です)。
長くなりましたので次回の記事に続きます。