月刊「クーヨン」2019年2月号記事「腸が元気なら夜泣き・ぐずりに悩みません」

オーガニック系育児雑誌「クーヨン」の今月号(2019年2月号)が発売になっています。

今月号の特集は「夜泣き解消で子も親もぐっすり」です。私は「腸が元気なら夜泣き・ぐずりに悩みません」という記事で登場していますが、簡単に補足します。

夜泣きとは、乳幼児が夜にはっきりとした原因がないのに泣くことを言います。一般的には、3ヶ月以降の子どもでは小さいほど泣く傾向がありますが、これは他の表現手段がないためと考えられています。通常3ヶ月〜4歳くらいまでみられ、発達障害があると12〜15歳くらいまで続くことがあります。

始めに、夜泣きと腸内細菌の関係についての重要な報告を紹介します。

まずは、イタリア、トリノ大学のフランシスコ・サビン博士が2007年に小児科学の最高権威であるPediatrics誌に報告したものです。

乳酸菌のひとつにL.ロイテリ菌という菌があり、この菌は母の乳房で増殖し母乳中に含まれるため、哺乳すると乳児に移行します。夜泣きが見られる乳児にこの菌を投与すると、1日平均200分以上であった夜泣きが50分以下に改善したという結果でした。

これは、夜泣きの原因が腸内細菌の異常であることを初めて報告した画期的な論文なのですが、ここで少し注意が必要です。

日本語では夜泣きと訳されることが多いのですが、この報告は正確には夜泣きではなく乳児疝痛(コリック)についての報告なのです。

コリックとは、日本ではあまりなじみのない言葉ですが、欧米では全体の4人に1人の児にも見られる程のメジャーな病気(症状)とされています。症状は、腹痛によると思われる激しい夜泣きで、通常1日3時間以上、週に3日以上、3週間以上この症状がみられるときに診断されます。コリックは生後2週から3ヶ月くらいの間に多く認めますが、日本でいう夜泣きは一般的には4ヶ月くらいから始まります。

ですから、このコリックと日本で一般的に言われる夜泣きは病態が異なると考えられます。実は欧米には「夜泣き」という概念自体がありません、日本では逆にコリックがほとんど見られないので、遺伝的な特性あるいは生活習慣の違いによるものかもしれません。

この後、この論文をもとにL.ロイテリ菌のサプリメントが夜泣きの96%にも効果あるとして発売になっている為、夜泣きの特効薬としての宣伝が入っている可能性があります。

次にこのL.ロイテリ菌についてもう一つとても重要な論文を紹介します。

科学雑誌の最高峰であるネイチャーやサイエンス以上のインパクトファクター(科学論文の重要度の指標です)が付いているセル(細胞という意味)という雑誌にのった論文です。2016年にアメリカ、ベイラー医科大学のバッフィントン博士が報告しました。

内容は、母親の腸内フローラを再構成することにより子どもの社会性欠如(自閉症様の症状)を正常化するというものですが、とてもたくさんの重要なことを含む報告ですので、かいつまんで要点だけ解説します。

①腸内フローラの異常のために肥満になっている母マウスから生まれた子マウスは自閉症様症状(発達障害の症状と考えていいでしょう:以下同)を示す
②①の子マウスに正常な腸内フローラを移植すると自閉症様症状が改善した
③はじめから腸内細菌を持たないマウス(無菌マウス)は成長の過程で自閉症様症状を示す
④③の子マウスに正常な腸内フローラを移植すると自閉症様症状が改善した
⑤自閉症様症状を起こすマウスの腸内フローラはL.ロイテリ菌が激減していた
⑥⑤のマウスにL.ロイテリ菌投与すると自閉症様症状が改善した
⑦L.ロイテリ菌は脳内のオキシトシン発現を誘導し大脳辺縁系のドーパミン性神経回路の維持に関与している
⑧つまり、メカニズムとしてL.ロイテリ菌減少→オキシトシン減少→自閉症様症状の発現となっている
⑨⑧のマウスにL.ロイテリ菌あるいはオキシトシンを投与すると自閉症様症状が回復した

すごい報告ですが、まとめると、腸内細菌の異常が自閉症の発症を引き起こし、腸内細菌を正常にすることで自閉症様症状が改善するということです。それにL.ロイテリ菌と愛情ホルモンと言われるオキシトシンが関与していることになります。

私は、良い腸内細菌の状態の大切な条件として、善悪ではなく、まずは菌が多様である(種類が多い)ことを挙げています。乳酸菌と一括りにまとめられていますが、乳酸菌にも数百もの種類があるのです。L.ロイテリ菌がどんなにいい菌でも、その菌だけを増やすのではなく、腸内細菌全体が元気になる自然な方法を考えるのが良いと思います。

今回は、いくつかの論文に沿って少し詳しく解説しました。しかし、本来自然に沿った生活をしていれば、このような複雑なメカニズムを一切考えなくても、腸内細菌が元気に整い「自然に」健康に生きて行けるように「自然が」調節してくれているのです。

ですから「自然に沿った生活をしていれば病気にならない、ほとんどの病気が改善する」とお伝えしています。また、私のお勧めする自然に沿った生活とは西洋医学や文明的なものを排除することでは全くないことも大切なポイントです。

長くなりましたので、今回はここまでとし、夜泣きの実際のメカニズムと腸内細菌の関係は次回の記事で解説します^^

私がいつも担当している子ども病院という連載の今月号のテーマは「エンテロウイルス」です。興味のある方は、ぜひ今月号の月刊「クーヨン」をご覧ください。

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