夜泣きのメカニズム
昨日出した夜泣きの記事の続き(夜泣きのメカニズムと腸内細菌の関係)になります。
おさらいになりますが、夜泣きとは、乳幼児が夜にはっきりとした原因がないのに泣くことを言います。
夜泣きは個人差が大きく、夜泣きが強い子を持つご両親の苦労はとってもとっても大変で、疲労困憊しノイローゼになるのも珍しくありません。
夜泣きの原因にはとてもたくさんのものが想定されています。中にはまったく原因がわからないものもたくさんありますが、よく言われる原因としては以下のものが挙げられます。
・昼間の興奮 イベント、疲れ過ぎ、刺激的な体験
・寝る環境 室内、明るさ、温度、衣服、布団の状態
・ミルク不足
・乳歯、両足のムズムズ感
・赤ちゃん返り
・体調不良 様々な病気、かぜ、鼻閉、中耳炎、発熱など
・個性(個人差)
・発達障害
・・・
夜泣きは生後すぐからみられることはほとんどなく、通常は生後3ヶ月頃からはじまり4歳くらいまでの子に多くみられます。私は、夜泣きは子どもの脳機能や心の発達とも密接に関係していると考えていますので、今回はこの面から夜泣きのメカニズムと腸内細菌との関係を解説してみます。
脳機能や心の発達と関連して特に重要なのは以下の2点になります。
①体内時計、とくに睡眠覚醒リズム
②情緒を制御するシステム、とくに前頭葉と辺縁系のバランス
まずは、①体内時計、とくに睡眠覚醒リズムの発達について説明します。
生まれたばかりの赤ちゃんは体内時計が未発達の状態です。体内時計の中でもとくに睡眠覚醒リズムが重要で、睡眠と覚醒のパターンに合わせて、他の体内時計のリズムも整ってきます。
睡眠覚醒リズムをコントロールしているのはメラトニン系です。このメラトニンはセロトニンから松果体内で作られます。
Lトリプトファン→セロトニン→Nアセチルセロトニン→メラトニン
乳児自身のメラトニン産生は生後3ヶ月から上昇しはじめます。実際に生後3ヶ月までは母乳中のメラトニンの量が多くなっており、それまでの子どもの睡眠覚醒リズムを補助し、その後は子ども自身のリズムに移行していきます。
夜泣きが始まるのは、この時期に一致していますので、何らかの理由でこの移行がスムーズに行かない場合に夜泣きになると考えられるのです。
そしてメラトニンの材料となるセロトニンの合成に最も重要な働きをしているのが腸内細菌でした。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/1534725996852414
ですから、腸内細菌の状態が睡眠覚醒リズムの発達に重要で、夜泣きにも大きく関係していることになります。
次に②情緒を制御するシステム、とくに前頭葉と辺縁系のバランスについての説明になります。
前頭葉とは、脳の一部で、思考や創造、意欲や実行など人間らしさを担うために脳全体を制御する司令塔と考えられています。一方の辺縁系は、大脳深部にある原始的な脳で、覚醒、情動、記憶、自律神経調節など生命維持や本能に関係しています。
夜泣きに関係する部分では、ごく簡単に辺縁系が覚醒や感情を高ぶらせ、それを制御するのが前頭葉と考えていいと思います。前頭葉は社会性の獲得に伴って発達してきますので、本能的な辺縁系に比べて遅れて発達してきます(本格的な発達は1歳くらいから)。
睡眠中は昼間にあった出来事の記憶を思い出し整理をする時間になりますので、その時に沸き上がってくる、満たされなかった思いや不安、恐怖、興奮などの感情(辺縁系)の高ぶりを未熟な前頭葉がうまくコントロール出来ていない時期に夜泣きが出ると考えられるのです。
そして、昨日書いた下記の記事に関係します。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2291190751205931
腸内細菌が脳内のオキシトシン発現の誘導や辺縁系のドーパミン性神経回路の維持に大きく関与しているという論文を紹介しました。
オキシトシン分泌は、腸内細菌の状態以外にも授乳、感情を素直に表すこと、家族とのスキンシップなどで増え、前頭葉を刺激して社会性の発達を促していることも大切です。
一方のドーパミン感受性ニューロンも大部分は前頭葉にあると言われていますので、ここでも腸内細菌の状態がドーパミン系を介して前頭葉の発達にも関係していることがわかりますね。
さらに上でも紹介した以前のブログ記事にも書きましたが、腸内細菌はストレス応答にも密接に関係しています。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/1534725996852414
簡単には、腸内細菌はストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌を調節することがわかっており、腸内細菌の状態が良好であれば、多少のストレスでは動揺せずに適切に対応することができるのです。
今回の記事をまとめると、夜泣きには体と心の両方の要因、さらに母の要因などが複雑に関係していますが、体ではとくに脳機能の発達、心では精神の安定やストレス応答が重要だということになります。
そして、腸内細菌は体(脳機能を含む)と心の両方を根本から下支えしており、大脳の発達自体、神経活動、精神活動(うつを含む)、ストレス応答、夜泣き、発達障害、自閉症のすべてとも大きく関係しているのです。
今回も少し細かいメカニズムを解説してしまいましたが^^大切なのは、いつも強調しているように「腸および腸内細菌の状態が人の健康にとって最も重要」だということになります。
夜泣きがあるから特別なことをするのではなく普段から生活(とくに腸内細菌に良い生活)を整えることが大切になります。
また、夜泣きの原因はたくさんあり、完璧に夜泣きをコントロールしようとするのではなく、時には大らかに余裕をもって対処するのがいいと思います(親の思い通りにいかないのが子育てなのです)。