免疫のとても簡単なまとめシリーズ④「獲得免疫系について」

シリーズで、できるだけだれにでも分かるように免疫の解説をしております。
いままでの記事を読んでいただくと理解が深まります。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2805909419734059


獲得免疫系は自然免疫系だけでは対処できない時に働き出す系です。決まった異物だけを排除し、記憶するのが特徴です。


獲得免疫系の役割は大きく以下の3つになります。
①自他の判定
自然免疫系が運んで来たものを判定しますが、「自分(自己)か異物(他者)か」を判定しています。自分(自己)と判定した場合にはもちろん反応しません。
②異物と判定した場合に、その異物だけを排除
動き出す獲得免疫系には、細胞外・細胞表面の異物に対処するための液性免疫と異常細胞(つまりウイルスに乗っ取られた細胞)を細胞ごと破壊するための細胞性免疫があります。さらに、初めて入って来た異物かいままでに経験した異物か(つまり記憶の有無)により反応の速度と程度が異なります。
③異物の記憶
記憶を残すことで、次に入って来た時にすぐに対応できるようになります。記憶ができるのは、液性免疫(抗体系)と細胞性免疫(細胞系)の両方です。


獲得免疫系は、自然免疫系が運んで来たものを異物であると判断した時から反応がはじまりますので、自然免疫系が働いていないと獲得免疫系も発動しないことも重要です。


獲得免疫系の司令塔は、液性免疫、細胞性免疫ともにT細胞=Tリンパ球(正式にはヘルパーT細胞)になります。


①液性免疫
簡単には抗体(正式には免疫グロブリン=Igと略す)のことだと考えていいでしょう。


(ヘルパーT細胞の指示により)B細胞=Bリンパ球が産生するのが抗体になります。抗体とは、Y字型の形をしており、ミサイルのように異物の特別な部分(形)にだけつく「印」だと考えましょう。


抗体は異物のたくさんの部分(形)に対して作られますが、1種類の抗体は1つの決まった部分(形)にしかくっつきません。一つのB細胞は一種類の抗体しか作りませんので、抗体の種類だけB細胞の種類もあることになります。


ウイルスが細胞に感染するために重要な部位につく抗体であれば、その後の感染を防ぐことができ、これを中和抗体と言います(中和とはウイルスの活性をなくすこと=不活化することです)。実際には一つのウイルスに対しても中和に関係しない抗体もたくさんできることになります。


抗体がついた異物は、自然免疫系が排除する印としても働きますので、中和できなくても免疫細胞に異物ですよと知らせる印になります。


一言で抗体といっても、いくつもの種類がありますが、基本は以下だけです。感染時にまず作られるのがIgM、少し遅れて作られる正式な抗体がIgG、IgAになります。血液中にある抗体がIgG、粘液中に分泌されるのがIgAです。


抗体は細胞外(つまり血液や細胞の周りの粘液、組織液の中)にある異物にはくっつきますが細胞内に入っている異物にはくっつくことができません。


液性免疫を一言で簡単に表現するなら「異物のマーキング(印付け)」になります。


④細胞性免疫
細胞を破壊する専門のT細胞(正式には細胞障害性T細胞=キラーT細胞)のことです。最近、T細胞免疫という言葉で語られることが多いようです。自然免疫系に属するNK細胞(ナチュラルキラー細胞でがん細胞や初期のウイルス感染細胞などを排除する:これもリンパ球の仲間です)と紛らわしいですね。


(ヘルパーT細胞の指示により)T細胞の一部が異常細胞を破壊する専門のT細胞=Tリンパ球になります。ウイルスなどに感染され乗っ取られてしまった細胞を排除するためのT細胞です。


抗体と同じように、異常な細胞の特別な部分(形)にだけ反応して、ウイルス感染細胞を直接排除します(B細胞と同じように形の種類だけ細胞障害性T細胞の種類があります)。


ウイルスに乗っ取られた細胞はウイルスの産生工場になっていますので、ウイルスの部品など正常な細胞が作らないものをたくさん作ります。その特別な部分(形)を異物と判断して細胞ごと排除するのです。


細胞性免疫を一言で簡単に表現すると「異物の産生工場の破壊」になるでしょうか。


獲得免疫系は複雑ですが、簡単に理解されたい方は以下の要点だけでも押さえましょう。たくさん出て来た細胞の名前などはすべては憶えなくても大丈夫です。
・獲得免疫系は特別な白血球(リンパ球)による免疫
・抗体は細胞外の異物、細胞障害性T細胞は細胞内の異物を細胞ごと排除する
・ともに異物の特別な部位(形)にだけ反応する
・ともに記憶を残し再度の感染に備える
以下に、解説していない補足も加えて獲得免疫系の特徴を箇条書きにまとめます。
・自然免疫系だけでは、排除できない異物に対応する
・細胞外の異物に対する液性免疫と異常細胞に対する細胞性免疫の2種類からなる
・自然免疫系からの情報を受け取り、相手(病原体)を特定する
・異物の場合にだけ反応を開始する
・特定の相手だけに反応する
・強力に反応し病原体の完全な排除や封じ込みに向かう
・異物を記憶する(一般に侵襲が大きいほど記憶が強くなる)
・はじめての異物には発動に時間がかかるが、2回目以降は、すぐに、強力に発動する
・獲得免疫系は自然免疫系から情報を受けないと発動しない
・獲得免疫系が働く時は自然免疫も動員する
・液性免疫(抗体)は比較的簡単に検査できるが、細胞性免疫は簡単にはできない特殊な検査になる(通常は専門の研究室で行う)


最後に少し補足します。


・免疫とは抗体のことだと理解している人も多いのですが、抗体は免疫②で解説した4種類の免疫の1つになります。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2804031226588545


・COVID-19にみられる免疫については後の記事でまとめて解説しますが、ここでは獲得免疫系に関係する以下の重要な点を押さえておきましょう。
①重症化には獲得免疫系が関係している
つまり病気の回復と悪化(重症化)の両方に獲得免疫系が関係している
②獲得免疫系のうち、液性免疫(抗体)は新たな感染の阻止(つまり中和です)には関係しているが、感染してしまった状態からの回復には細胞性免疫の方が重要と思われる


次回の記事は免疫は「働くこと」と「調節できること」の両方が大切ということについて記事にします。


これまでに書いたコロナウイルス関連の記事は以下にまとめています。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2728645230793812

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