免疫のとても簡単なまとめシリーズ⑤『免疫は「働く」ことと「調節できる」ことの両方が大切』

シリーズで、できるだけだれにでも分かるように免疫の解説をしております。
いままでの記事を読んでいただくと理解が深まります。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2805909419734059


免疫は「働く」ことと「調節できる」ことの両方が大切です。あまり指摘されないのですが、非常に重要な部分になります。よく使われる「免疫力を上げる」という言葉ですが、本来は「免疫を調節する能力を上げること」とも言えるのです。


以下にわかりやすく解説してみます。


免疫が「働く」とは「異物を排除すること」になります。
免疫の「調節」とは「免疫反応をいつ始めるのか、どの程度の強さにするのか、いつ止めるのか」ということになります。


ラジオで説明すると、ラジオ本体(が壊れていないこと)が「働くこと」でスイッチやボリュームが「調節」になります。


免疫が働かなければ、普通はまったく問題にならない常在菌や常在ウイルスでも病気(感染症)になったり、軽い感染症でも重症になります。また、発生したがん細胞を取り除くこともできません。


ですから、まずは免疫がしっかり働かなくてはなりません。しかし、免疫はできるだけ強く働けばいいのかというとそうではないのです。


免疫が強く働きすぎると、異物だけでなく、普通は反応しなくてもいいもの(花粉や食べもの)に反応したり、自分の正常細胞や組織までも排除してしまうからです。これがアレルギーや自己免疫疾患になります。


免疫が働かない=弱すぎると異物を排除できませんし、調節が悪く、働きすぎる=強すぎると自分を傷つけることになりますので、免疫は強すぎても弱すぎても問題だと言うこともできます。


実は、現代人は免疫の働きが悪いこと以上に、免疫を調節する能力がとても低くなっています。


その証拠がアレルギーや自己免疫疾患の急増に示されています。アレルギーはたった50年前は1000人に1人、70年前は10000人に1人程でしたが現在では2〜3人に1人と激増しています。自己免疫疾患もアレルギーに劣らない勢いで急増しています。


さらに、急増している現代の病気である現代病(アレルギー、自己免疫疾患以外にも生活習慣病、がん、うつ、発達障害など)のほとんどは免疫の調節障害=暴走と考えてもいいのです。


なぜ、現代人は免疫の調節能力が落ちているのでしょうか?


最も重要なポイントは、免疫力として実際に働いているのは免疫細胞(白血球)ですが、調節するためには腸内細菌などの常在菌(かつての寄生虫も)が必要なことにあります。

ヒトは単独で生きているのではなく、腸内細菌などの常在菌や常在ウイルスと共存している生態系(超個体)です。これらは、本来は異物(非自己)なのですが自己のように排除されません。


常在菌や常在ウイルスは自分の近くの微生物を取り込むことでできていきます。免疫系は、生まれてからずっと自分の近くにどのような微生物がいるのかを確認し、共存する菌を体内に取り込んでいきます。共存できない微生物は排除します。


免疫系が適切に働くためには、これらの微生物と常にやりとりをして、どこから排除を開始するか、どの程度働くかなどの調節を練習する必要があるのです。


つまり、免疫力を上げること=免疫を適切に調節する(暴走を防ぐ)ためには、微生物と触れ合うこと、腸内細菌などの常在菌を整えることが最も本質的なことになります。


最後に今回の記事のまとめておきます。
・免疫は「働くこと」と「調節できること」の両方が大切
・免疫が働かなければ、感染症になりやすい
・免疫の調節が悪いと現代病(アレルギー、自己免疫疾患、生活習慣病、がん、うつ、発達障害など)になる 
・COVID-19の重症化や死亡は免疫の暴走(調節不全)が関係している
・現代人は免疫の調節能力がとても低下している
・免疫系の調節には、微生物と触れ合うことと腸内細菌の状態が良いことが大切である
・現代病の本質は環境、及び体内の微生物を排除していることにある


これまでに書いたコロナウイルス関連の記事は以下にまとめています。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2728645230793812

関連記事

no image

下野新聞に私の新しい本『感染を恐れない暮らし方』が紹介されました

本日(6/7)の下野新聞に私の新しい本『感染を恐れない暮らし方』が紹介されています。とってもありがたいです^^ Amazonでの発売は6/9、書店の店頭には6/11頃に並ぶ予定です。どうぞよろしくお願いいたします。http://urx.blue/0VXK

no image

新型コロナウイルスについてのウイルス学的な特徴(2/24) COVID-19③

新型コロナウイルス(COVID-19)関連の記事を続けて書いています。 いままで書いた記事のリンクは以下の通りです。 最も重要な情報の簡潔なまとめ https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2622431101415226 新型コロナウイルスの臨床的特徴(2/22の時点) https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2623921001266236 新型コロナウイルスは新しく登場したウイルスです。適切な対応をするためには正確な情報が必要になりますが、ウイルスを含め、感染症についての理解は、医師や専 […]

no image

COVID-19の日本と米国の現状 2020年11/14の時点

前回の流行の際、使われる用語とほとんどの政府系機関やマスコミが使用している陽性数と私が計算している陽性率との解釈の違いを解説しました。https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2860138790977788 今回の記事は、これを踏まえて、日本とUSA でのCOVID-19の状況を解説します。 はじめに、日本です(図1)。COVID-19の発生初期から現在(2/23〜11/14)までの陽性数、陽性率、死亡数の推移を図に示します。 検査陽性数でみると、現在、日本は現在第3波の始まりに入っているように見えます。  まず第2波ですが、第1波に比べてピ […]

no image

遺伝子変異(型)による死亡率や重症度に違いはない

GISAIDの新型コロナウイルス遺伝子のデータベースを使って現在(2020年12月1日)までに、世界中から報告された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の全ウイルス(総数183,422ウイルス)の遺伝子変異を解析しました。 新型コロナウイルス遺伝子の分類法には現時点で主に3種類あります。3つの分類法の関係は図を参照してください・Nextstrein:https://nextstrain.org/・GISAID:https://www.gisaid.org/・cov-liniages.org:https://cov-lineages.org/ それぞれの分類法に利点と欠点があり、含まれるウ […]

no image

活動制限は第2波の発生や推移に関係していない?

8/19日の記事で、全世界のデータから第2波について検査陽性数と陽性率、さらに死亡数との関係をまとめました。https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2781967135461621 前回の記事の結論を簡潔にまとまると以下になります。・陽性者よりも陽性率(陽性数/検査数)の推移が流行の真の実態に近い・第2波に見えても陽性率で補正すると第1波後のくすぶりであることが多い・補正でも第2波と考えられる国は3カ国だけであり、これらの国でのみ死亡数の再増加を認める 今回は、これに活動制限のデータを加えて第2波との関係を解析しました。 行動制限は①各国がと […]

PageTop