新型コロナウイルスの遺伝子変異は今のところ重症化と関係していない


世界中から報告された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の全ウイルス(総数183,422ウイルス)の遺伝子の変異を解析しました。

ぜひ、前回の記事も参照してください。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2891197281205272


結論は、前回書いた様にとてもシンプルです。
「現在までに新型コロナウイルスのたくさんの遺伝子変異(いわゆる型)が報告されてきたが、遺伝子(型)の違いにより重症度に大きな違いは認められない」


今回は、各地域の結果を紹介する前に、理解しやすいように、新型コロナウイルスの遺伝子解析についての基本的な知識をまとめました。


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は発生から現在までに、遺伝子の変異から以下の8つの系統(正式にはクレード=系統種)に分けられています。
S, L, O, V, G, GH, GR, GV
Oはその他=分類不能という意味ですが、ほとんどがLとVに近いものに分類されています。


前回の記事に書いたように、一般の記事にはS型、L型など「型」と説明されるのですが、実はこれらは型という程の違いはありません。ですから、私の記事では単にS、Lと表記し、タイプ(正式にはクレード)と説明します。


まず、新型コロナウイルス(SARS-2)の全遺伝子(フルゲノム=全長29903bp)が初めて報告されたウイルスはWuhan-Hu-1でLになります。


他のすべてのウイルスは、このウイルス(レファレンスウイルス)の遺伝子と比べてどこが変異しているかで分類されます。


新型コロナウイルスのレファレンスウイルスはLですが、発生的にはおそらくSがオリジナルと考えらます。


いずれにしてもSとLが初期タイプ
LからVとGが発生
GからGH, GR, GVが発生


という流れになっています。


大まかな理解としては、以下を押さえておけば十分でしょう。
・Sが少し変異して中国武漢市で大量に発生したのがL(いわゆる武漢型といわれた)
・S, L, O, Vまでが「初期タイプ」
・その後のGは感染力が高い、増殖能が高い、重症度が高いなどたくさん報告されているD614G変異を含むタイプで一時「欧米型」などといわれたもの
・このD614G変異はGだけでなくその後のGH, GR, GVのすべてが共通して持っている変異であることに注意
・そして2020年6月にスペイン発の新型と報告され、最近注目されているのが最新のGV

今回の一連の記事では現在の主流であるD614G変異を持つG, GH, GR, GVを合わせて「G変異タイプ」と呼ぶことにします。S, L, O, Vが「初期タイプ」です。


では、新型コロナウイルスが発生したとされる2019年12月から2020年12月1日現在までの全世界から報告されている遺伝子タイプの変化を示します(図1)


・2020年2月中旬を境に初期タイプ(S, L, O, V)からG変異タイプ(G, GH, GR, GV)への移行がみられる
・初期タイプはその後急速に少なくなり、2020年の8月移行はほぼみられないか消失している
・現在では全世界の99%以上がG変異タイプ(G, GH, GR, GV)になっている
つまりD614G変異は特別な変異ではなく、現在では世界で流行しているほとんどの株に含まれている変異ということになる
・D614G変異をもつG変異タイプ(G, GH, GR, GV)の中では、2020年8月まではGRの増加が大きい
・2020年9月以降GVの検出が急速に増えており、現在では全報告の約65%を占め、さらに増加する傾向にある。
・GVの増加につれ、GRは減少しているが、G, GHはコンスタントに1割ほどの検出が続いている
ただし、このGVは現在までのところ主に西欧と北欧でのみ検出されており、東欧や他の世界中の地域ではほとんど報告がないことに注意が必要です。


さて、これまでL, G, いわゆる欧米型, D614G変異株、GV(20A.EU1)=スペイン発の新型などと新しい変異が見つかるたびに「感染力が高い」「増殖能が高い」「重症度が高い」などという報道がされ、実際に解析された医学論文もたくさん出てきています。


そして、現在イギリスロンドンで発生した新しい変異ウイルスが話題になっているそうです。12/11に初めて検出されていますので、今回の解析には入っていません(今回の解析は12/1までのデータ)。

確認ですが、感染力が高いことが必ずしも重症化や死亡率の上昇と関係しているとは限りません。感染率が高く軽症であれば、むしろ感染して免疫がついた方がいいこともあります。
また、実験室(生体外)での結果が必ずしも人に当てはまるわけでもありません。

今回の一連の記事では、様々な変異タイプが最も重要な重症度である死亡率と関係するのかどうかを検証しました。


結論は、前回書いた様にとてもシンプルです。
「現在までに新型コロナウイルスのたくさんの遺伝子変異(いわゆる型)が報告されてきたが、遺伝子(型)の違いにより重症度に大きな違いは認められない」

ただし、ウイルスは今後も遺伝子変異(ウイルス進化)し続けていきます。今回の結果はこれまで(2020年12/1)の遺伝子変異のまとめとそこから予想できることになります。


次回から数回に分けて各地域の遺伝子タイプと死亡率の関係をみていきます。
その後、主なアミノ酸変異との関係についても可能なら追加していく予定です。


これまでに書いたコロナウイルス関連の記事は以下にまとめています。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2728645230793812

関連記事

no image

一般家族内で新型コロナウイルス感染が疑われたり、すでに発症者が出た場合の対応(2/26) COVID-19⑤

連日、新型コロナウイルスの記事を書いています。今までの記事のリンクを以下にまとめておきます。ぜひ合わせてご参照ください。 ①最も重要な情報の簡潔なまとめ https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2622431101415226 ②新型コロナウイルスの臨床的特徴(2/22の時点) https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2623921001266236 ③新型コロナウイルスについてのウイルス学的な特徴 https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/ […]

no image

欧州のCovid-19第2波の現時点での解析(11/20)

現在、欧州で第2波が来ていることは以前の記事で書きました。下記の前回の記事から2週間ほど経過していますので、第2波の中間報告と今後の予想をしてみます。https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2852586808399653https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2857304337927900 今回解析した国は、今までも解析しているヨーロッパの28カ国(西欧21カ国と東欧7カ国)になりますが、現在すべての国で第2波を認めます。現時点で第2波が収束した国はありません(アイスランドだけほぼ収束) […]

no image

「検査陽性と感染と発症の違いをわかりやすく説明します」

新型コロナウイルスでは「検査の陽性者」を「感染者」として報道されていることがほとんどで、これはとてもとても重大な問題です。報道機関をはじめ、医師や専門家がこのことを指摘しないことはそれ以上に問題と言っていいでしょう。 今回の記事はこれらをわかりやすく、明解に説明します。 ①検査陽性とはCOVID-19では、途上国を含め、すべての国で検査はPCR検査によるものがほとんどですので、ここではPCR検査陽性のことを解説します。 PCR検査陽性とはPCR検査でウイルスが検出されたことを意味します。PCR法は何を検出しているのかというと、ウイルス遺伝子(コロナウイルスRNA)の断片(全遺伝子=ゲノムのごく […]

no image

免疫のとても簡単なまとめシリーズ⑤『免疫は「働く」ことと「調節できる」ことの両方が大切』

シリーズで、できるだけだれにでも分かるように免疫の解説をしております。いままでの記事を読んでいただくと理解が深まります。https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2805909419734059 免疫は「働く」ことと「調節できる」ことの両方が大切です。あまり指摘されないのですが、非常に重要な部分になります。よく使われる「免疫力を上げる」という言葉ですが、本来は「免疫を調節する能力を上げること」とも言えるのです。 以下にわかりやすく解説してみます。 免疫が「働く」とは「異物を排除すること」になります。免疫の「調節」とは「免疫反応をいつ始めるのか、 […]

no image

しょう油麹の仕込み

今週末6月1日〜6月2日の健康合宿で行うしょう油作り講座のために、しょう油の仕込みをしています。 私の周りでも自前のみそを作る方が増えて来ていますが、しょう油は難しい印象があるためか、自作されている方はほとんどいないようです。 しかし、しょう油は豆麹を作る事が出来れば(あるいは種麹が手に入れば)とっても簡単に(みそよりも簡単に?)仕込む事が出来るのです。今回の講座では、しょう油作りの醍醐味を伝えられた嬉しく思います。 自分で作れば、材料を厳選することができますし、自分好みにもアレンジする事もできます。必ずしも完璧に出来なくとも、できたものの味わいは格別で健康にもいいものになると思います。 実践 […]

PageTop