月刊「壮快」2019年6月号記事「遺伝子組み換え(GM)作物について①」

今回は、月刊壮快の記事を補足して、遺伝子組み換え作物(GM作物)についてです。

 

健康雑誌の月刊「壮快」に「自然派医師が土をいじる。菌とたわむれる。」という記事を連載中です。今月号(20196月号)は連載第18回目「遺伝子組み換え食品について①」です。

 

今回は、月刊壮快の記事を補足して、遺伝子組み換え作物(GM作物)の論文報告で最も重要なものを紹介致します。2012年にFood and Chemical Toxicology誌という食に使用される添加物などの毒性についての専門の医学雑誌に掲載されたSeralini博士の論文報告です。

論文タイトルは「Long term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize」です。

 

しかし、この報告は後に掲載した雑誌により不適切として撤回(科学史上からの削除です)されています。

 

この報告は、モンサント社(遺伝子組み換え作物(以下GM作物)とそれとセットの除草剤ランドアップ=グリホサートの開発会社)が90日間の実験で安全とした報告とほとんど同じ実験を2年間に拡張したものです。

 

実験にはラットを使っていますが、ラットの寿命は、ほぼ3年であり、ラットの90日、2才は、それぞれ人の1518歳、6070歳くらいに相当します。GM作物の安全性の論文のほとんどは短期から中期間の結果の報告であり、この論文は長期の観察を詳細に行った画期的な論文になります。

 

モンサント社が出した元論文は同じFood and Chemical Toxicology誌に2004年に発表されています。論文タイトルは「Results of a 13 week safety assurance study with rats fed grain from glyphosate tolerant corn」になります。

 

モンサント社のこの報告を要約すると、GMコーンを食べたラット群は90日間で健康であり、食事量、医学的検査(貧血などの一般献血、肝機能・腎機能などの生化学、尿検査)、臓器の重さ、組織の顕微鏡検査のいずれも全くの正常であったというものです。

 

では、Seralini博士がこの報告を2年間に拡張した実験の結果を示します。ラットを10匹ずつ以下のグループ①GMコーン②GMコーン+除草剤(グリホサート=ランドアップ)③除草剤+通常のコーン④通常のコーンに分け(さらにそれぞれのグループでGMコーンの比率や除草剤の量を細かく分け)て2年間観察しています。

 

主な結果を以下に示します。

①腫瘍発生率は非GM群で約3割、GM群で全体の58割であった。

②腫瘍の出来る時期は非GM群は2324ヶ月(人の6080歳)、GM群は4ヶ月(人の20歳)から出現し1112ヶ月(人の3040歳)から急速に増えていた。

以下は性別により違いが大きかったが、

③肝障害はGM群は非GM群の2.55.5

④腎障害はGM群は非GM群の1.32.3

⑤寿命の短縮 実験終了の2年に達しないで死亡するラットの割合は、非GM群では雄20%、雌30%GM群では雄50%、雌70%であった。

 

その他の結果を簡単に要約します。

GMコーンは有害、除草剤(ランドアップ=グリホサート)も有害、もちろん両方でも有害

GMコーンの食事全体に対する割合、除草剤の濃度による違いはあまりみられない

③障害は肝臓、腎臓毒、脳下垂体、乳房に多くみられる

④さらに様々なホルモン系のかく乱を認める

 

GM作物および除草剤(ランドアップ=グリホサート)についてとても重要な結果を示したこの論文は、先に示したように、後に掲載した雑誌により論文が撤回されています。理由は「実験設計や分析手法に複数の不備かあり、何の科学的な結論も導き出すことはできない」というものです。

 

では、掲載した雑誌が示した撤回の具体的理由を見ていきましょう。()内は私の意見です。

最も重要な理由は以下のものです。

①サンプル数が少なく、統計的に何らの結論も引き出す事はできない

(この報告は実験系として全く不備はなく、Organization for Economic Co-operation and Development :OECD(経済協力開発機構)による基準に準拠しており、世界中の他の何千もの化学物質の慢性毒性の論文と同等のサンプル数も満たしている)

 

撤回の他の理由も見てみます。

②実験で使ったラットは腫瘍が非常に発生しやすい系統である

(はい、そうですが、比較対照試験なので全く問題ない)

③腫瘍発生率に用量依存(量と発生率の)関係が無い

(結果の一つであり、これがどのような意味を持つのかは考察であり、論文を撤回する理由にはならない)

④ラットの食事量が明示されていない

(そのとおりであるが、あまり大きな問題(少なくとも論文を撤回するような)とは考えられない)

⑤対照群にも多くの腫瘍が発生しており 、因果関係を推定できない

(そうだが、発生率、発生時期に明らかな違いがあるという結果である)

⑥すべてのデータを報告しておらず、都合のいいデータを統計解析に用いている

(これを主張する根拠が不明だが、多くの論文でも同様の統計解析を行っている)

 

つまり、この重要な論文の撤回は、実験の組み立てや結果、内容などとはまったく関係のない理由で行われており、科学的にも倫理的にも正当なものではないことがわかります。これらを踏まえて、皆さんはGM作物の安全性は本当に証明されていると考えますでしょうか?

 

人は自分の考えに合ったもの、都合のいい情報だけを集める傾向が強くあります。物事の判断は、誰か(専門家?権威?学会?メディア?)が評価したものやまとめた意見だけではなく、事実をそのまま見る視点がとても大切になります(その事実も歪められることが多くなりましたが・・・)。これは、GM作物だけでなく、あらゆる食事、砂糖、牛乳、小麦、油、薬、ワクチン、添加物、経費毒、フッ素、放射能などにも当てはまります。

 

TPPが昨年末より施行されています。これからはGM作物や産地の表示すらなされなくなる事が予想されます。家族や子ども達、未来の子孫達、環境をどのように守っていくのか、真剣に考える時期に入っています。

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