感染症の流行の解釈とCOVID-19の陽性率

感染症の一つの流行は、多くの場合、正規分布のような発生を示し、この一つの山を波と表現します。初めての波が第1波、2番目の波が第2波(・・・以下同様)になります(図1-①)。


横が経過時間(通常は日数)、高さが発生した人数(陽性数)になります。


頂点をピークと言い、流行がピークを超え、発生が増加から減少に移ることをピークアウトと言います。ピークの高さとピークまでの時間(つまり、ピークアウトまでの経過)で一回の流行のだいたいの規模がわかります。


ピークまでの期間は流行が拡大している期間、ピークを経過した後は流行が収束に向かっている期間になります。図の上り坂や下り坂が急であれば感染の拡大や収束(おさまり)が速く、緩やかであれば、遅くなります。


図1は、一つの感染症の一つの流行の典型的な経過を示しましたが、COVID-19では、一つの流行が収束した後も、患者の発生がゼロになることはなく、少数の発生がずっと続くことになり、私はこれを「くすぶり」と呼んでいます(図1-②)。


この発生がくすぶった状態は、今後もずっと続くということが大切です。おそらくワクチンや新薬が登場しても大きくは変わることはないでしょう。そして、このくすぶった状態からは、いつでも第1波、第2波・・・が発生してもおかしくない状態になります。


一つの国での発生数の推移の模式図とその解釈を図1-③に示します。


大きな山を3つ認めますので、この国ではこの期間に第1波から第3波まで3つの流行があったと解釈されます。


第2波と第3波の間のとても小さい山は小流行とも考えられますが、くすぶりなのか流行なのかはっきりしません。これを一つの流行と解釈すれば、全体で4つの流行があったことになりますが、カウントするかしないかの明確な基準はありません。


流行の推移を見る場合、一つの国(あるいは地域)では陽性数の検査は検査基準や検査方法が同じであることがとても重要です。


まず、通常の感染症であれば無症状の人は検査を受けませんが、COVID-19では現在、無症状の人にまでPCR検査を拡大しています。


例えば麻疹(はしか)の様にウイルスをもらった人が、ほぼ100%の確立で間違いなく感染し発症する感染症の場合は、検査の感度を上げても陽性数が変わりませんので全く問題ありません。


しかし、今回のCOVID-19は、ウイルスをもらっても1/2〜2/3は無症状と考えられています。


さらに、Ct値をはじめとするPCR検査の感度も極限近くまで上げています(ただし、ウイルスが1個もいない場合は、どんなにCt値を増やしても陽性にはなりません)。

このように現在の検査基準や検査方法では、検査数を増やせば増やすだけ、本当の病気の人以外(ウイルスがいるだけで本来は感染や発症しない人)が陽性になる数(擬陽性といいます)も増えることになります。


実際に、とくに日本を含めた先進国では、第1波と第2波ではPCR検査数が大きく異なります。


わかりやすい例として、第1波の後に、くすぶり期があり、その後第1波と同じくらいの大きさの第2波が終了しくすぶり期に入っている国があったとします(図2-①)。


そして、第2波の時の検査数が第1波の3倍に増え、その後も少しずつ増やし続けた場合の陽性数(図2-②)と陽性率(図2−③)の推移を示します。


陽性数では流行の現状はまったくわからなくなり、陽性率を計算することにより本当の流行の推移に戻すことができます。


いままでの記事で示したように、実際に世界中のほとんどの政府系機関やマスコミが使用している陽性数の推移は、死亡数と大きくかけ離れており、それを正す簡単な方法が陽性率の計算になるのです。


これまでに書いた記事のまとめは以下を参照してください。
https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2728645230793812
どうぞよろしくお願いいたします。

関連記事

no image

新型コロナウイルスの臨床的特徴(2/22の時点) COVID-19②

先日(2/21)、現在日本で流行しつつある新型コロナウイルス(COVID-19)について、まず大切になる最も重要な情報を簡潔にまとめました。 https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2622431101415226 今回は新型コロナウイルスのウイルス学的な特徴を書こうと思ったのですが、専門的な話よりも、まずは大まかな臨床的な特徴を現時点で分かっている範囲でまとめて記事にしました。以下の点に注意してください。 ・新しく出現したウイルスですので、不明な点が多い ・現在進行中の感染症なので最終的な結論ではない ・特定の報告からではなく、多くの情報元 […]

no image

一般家族内で新型コロナウイルス感染が疑われたり、すでに発症者が出た場合の対応(2/26) COVID-19⑤

連日、新型コロナウイルスの記事を書いています。今までの記事のリンクを以下にまとめておきます。ぜひ合わせてご参照ください。 ①最も重要な情報の簡潔なまとめ https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2622431101415226 ②新型コロナウイルスの臨床的特徴(2/22の時点) https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2623921001266236 ③新型コロナウイルスについてのウイルス学的な特徴 https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/ […]

no image

今シーズンの日本の超過死亡・超過死亡④ 「COVID-19第1波のまとめ④」

今回は、日本の今シーズンの超過死亡についてになります。 超過死亡のデータは、後で必ず必要になると思いますので、淡々と続けていきます^^ 今までの超過死亡の記事はリンクを参照して下さい 結論は、今シーズンの日本では、インフルエンザ、COVID-19ともに超過死亡は発生していないか、発生していてもごくわずかであることが予想されます。 以下、詳しい説明になります。 実は、日本では超過死亡は古くから解析されており、超過死亡を迅速に計算できるシステムがあります。 https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2112-idsc/jinsoku/131-flu-jinsoku. […]

no image

新型コロナウイルスについてのウイルス学的な特徴(2/24) COVID-19③

新型コロナウイルス(COVID-19)関連の記事を続けて書いています。 いままで書いた記事のリンクは以下の通りです。 最も重要な情報の簡潔なまとめ https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2622431101415226 新型コロナウイルスの臨床的特徴(2/22の時点) https://www.facebook.com/shinjiro.homma/posts/2623921001266236 新型コロナウイルスは新しく登場したウイルスです。適切な対応をするためには正確な情報が必要になりますが、ウイルスを含め、感染症についての理解は、医師や専 […]

no image

現代ビジネスオンラインで私の新刊の特集記事が公開されました。

現代ビジネスオンラインで私の新刊の特集記事が公開されました。 『ウイルス研究者が語る「守るべき暮らし方」』になります。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73006 私の新刊「感染を恐れない暮らし方」の中のたくさんの項目のわかりやすく簡潔なまとめになっており、主な内容は以下になります。 ・変異する新型コロナ、今後も感染の可能性はある ・自然に沿って暮らせば、病気にならない ・ウイルスによる感染症は、薬では治せない ・新型コロナから回復する唯一の方法は自然治癒力 ・自然と離れた暮らし方が感染後の重篤化を招く ・からだの防衛にかかわる常在菌のためには、過度な手 […]

PageTop